コミケを風疹から守り隊

2011年3月29日火曜日

P03-02: ホメオパシーについて

初回公開日:2011年3月29日
最終更新日:2011年3月29日



ホメオパシーは、2010年に最も話題になったニセ科学と言えます。そこで、ニセ科学批判の各論としてホメオパシーを取り上げてみましょう。


1.ホメオパシーとは何か


ホメオパシーとは、今から200年ほど前に、ドイツ人医師サムエル・ハーネマンにより提唱された治療法です。ハーネマンは、自らがマラリアの治療薬であるキニーネを服用したところ、マラリアに似た症状を起こしたという体験をきっかけとして、ホメオパシーの理論を考え出しました。即ち、


1)マラリアの治療薬であるキニーネを飲み過ぎると、マラリアの様な症状が起きる。
2)従って、キニーネはマラリアの原因と考えられる。
3)つまり、病気に対する薬を多量に飲む事は、その病気の原因になる。
4)これを逆に考えると、病気の原因を少しだけ飲む事は、その病気に対する薬となる。
5)薬が多すぎると病気になる。即ち、薬の量は、減らせば減らすほど効果が強くなるはず。


彼はこの様に考え、その考えに基づいて様々な病気に対して、その原因だと考えられていた物質を極端に薄めたものを作りました。それが各種の「レメディ」であり、このレメディによる治療の体系がホメオパシーなのです。
ちなみにホメオパシーは日本語で「同種療法」と訳されます。これは要するに「病気の原因と治療薬とは同種の物質である」という考え方が基本にある、という意味です。


2.ホメオパシー「理論」の誤り


でも、ちょっと待ってください。上記1)~5)の考え方は、確かに論理的な様でもありますが、途中に幾つもの飛躍があります。

そもそも、キニーネはマラリアの原因ではありません。現代の我々は、マラリアがマラリア原虫という病原体によって引き起こされる事を知っています。しかし、ハーネマンの時代には、まだマラリアの原因は不明でした。だからこそ、彼は「マラリアの原因は何だろう」と探していたのです。そこに個人的体験が加わったために「キニーネこそマラリアの原因」という間違った考えに至ってしまったのです。
また、仮に、キニーネがマラリアの原因であったとしても、そこから直ちに「あらゆる病気において治療法の過剰と原因は同一である」などとは、とても言えません。病気の原因は様々であり、治療法も様々です。また同一の病気に対して異なる治療法が用いられる事もあれば、異なる病気に対して同様の治療法が用いられる事もあります。
更に「減らすほど効果がある」に至っては、極めて乱暴な類推にしか過ぎません。薬であれ、毒であれ、一般的に「量を増やせば増やすほど効果が強くなる」のが基本です。勿論、薬といえども、量を増やし過ぎれば効果が強くなり過ぎて副作用が出るのですが、ハーネマンが言っているのは、それとは全く似て非なる概念です。
つまり、はっきり言えば、ハーネマンの考えたホメオパシー理論は「間違いだらけ」なのです。


でも、あまり彼を責める訳にもいきません。何と言っても、200年前の人なのですから。
200年前と言えば、日本では江戸時代後期。丁度、松平定信による寛政の改革と水野忠邦による天保の改革との間にあたる時代です。その時代の人が考えた理屈ですから、時代遅れなのは当たり前です。
おそらく、ハーネマンは一人の医師として、真剣に患者の為に新しい治療法を作り出そうとしたのでしょう。その精神は尊重したいです。しかし、だからと言って、現代の我々が彼の主張を金科玉条の如く有り難がる必要は全くありませんね。


3.ホメオパシーの衰退


さて、そんなホメオパシーも、当初はそれなりに注目されました。何故なら、当時のドイツで行なわれていた医療とは、極めて前近代的なものであり、瀉血の様に効果が無いどころかむしろ有害と言える行為も広く行なわれていたからです(瀉血は多血症の治療としては有効ですが、それ以外の疾患には効果がありません。そして多量の血液を失う事は勿論、健康に悪影響を及ぼします)。
それに比べれば、ホメオパシーは「まだマシな方」だったのかもしれません。


しかし、やがて医療は発展し、様々な疾患に対して有効な治療法が確立していきました。そうした過程の中で、他の様々な治療法と同様に、ホメオパシーについても有効性の検証が行われてきたのです。そしてその結果「幾ら調べてもホメオパシーには気休め以上の効果は無い」という事が明らかになってきました。こうしてホメオパシーは下火になったのです。
ホメオパシーを擁護する人は良く「批判者は実際に体験もせずに、頭ごなしに否定するばかりだ」という事を言います。しかし実際には、上に述べた様に「ホメオパシーに効果があるかどうか」に関しては真面目に検証されてきた歴史があり、きちんと調べた結果として「気休め以上の効果は無い」事が解ってきた訳です。
勿論、原理的に考えても、ホメオパシーに効果があるとは到底考えられません。元の物質が1分子も含まれないほど薄められた水溶液には元の物質の性質は全くありません。水が、溶けていた物質を記憶しているという事も、ありません。


つまり、ホメオパシーとは「原理的にもあり得ないし、実際に調べてみても気休め以上の効果など無い」というものなのです。


4.蘇えるホメオパシー


この様に一旦は衰退したホメオパシーですが、近年、再び注目される様になってきているのです。それは何故なのでしょうか。幾つかの要因が考えられます。


1)お手軽に自己実現が出来る
ホメオパシーのレメディは、単なる砂糖玉としては恐ろしく高価ですが、本物の医薬品に比べれば安いとも言えます。健康に不安のある人がお手軽に安心感を得るには丁度良いのです(あまりにも安過ぎると、逆に安心感が得られ難い)。
一方で、ホメオパス(ホメオパシーを施す人の事をホメオパスと呼びます)になるのも、お手軽です。確かにホメオパスになるには安くない料金と短くはない受講期間が必要でしょう。しかし、ホンモノの医療従事者になる手間に比べれば、遥かにお手軽です。勿論、そうして得られたホメオパスの資格は、はっきり言ってお稽古事のお免状にも及ばないものでしかありません。
とは言え、一旦ホメオパスになってしまえば、あたかも医者と同等であるかの如く、診断や治療の真似事を行なえるかの様に錯覚してしまいます。自己実現の方法としてはもってこいです。


2)医療不信の受け皿としてお手頃
少し、現代の「医療不信」に関して持論を述べます。
かつて、病気で死ぬ人は今よりも遥かに沢山いました。産まれてきた子供が無事に成長できる確率も低く、母親も「産後の肥立ちが悪くて」亡くなる事も珍しくありませんでした。
しかし、医学の発展により多くの病気が治る様になってくると、逆に「現代医学をもってすれば、どんな病気でも治るのが当たり前」という風潮になってきたのではないでしょうか。これは裏返せば「治らないのは、医者が悪い・医療が悪い」という意識にも繋がります。
この様にして医療不信の考え方が生まれると「アンチ現代医療」という思想も一定の支持を得るでしょう。これが、ホメオパシーの広がる要因の一つであると考えます。


3)実際に効果があると誤認してしまう
「三た論法」という言葉があります。これは「治療した、治った、故に効いた」とする論法の事です。勿論これは正しくありません。たまたま自然治癒の時期に一致しただけかもしれませんし、同時に行なった他の何かが効果を示したのかもしれません。
これをはっきりさせる為には、同じ病気に対して他の条件を揃えておいて、その治療を行なった場合と行なわなかった場合を比較しなければなりません。我々が医療で使っている治療法というのは、その様にして効果が確かめられてきたものばかりです。
しかしホメオパシーはそうではありません。「効果があった」とする論文も存在しますが、端的に言ってそうした論文は調べ方がいい加減です。きちんと調べれば調べるほど、ホメオパシーの効果は限りなく「気のせい」という事になっていくのです。
しかし、たまたま「ホメオパシーを使ったら治った」様に思える体験(実際には錯覚ですが)をしてしまった人からみれば、ホメオパシーに効果があると思い込んでしまうのも無理はありません。


5.終わりに


ホメオパシーやホメオパシー的な思想は、我々の「心のスキマ」に入り込んでくるものだと言えます。
ですから、自分がホメオパシーにハマるのは、愚かかもしれませんが、必ずしも罪だとは言えません。
しかし、他人に勧めたり、紹介したりした時点で、それは罪になると考えます。
勿論、一番悪いのは、金儲けの為に他人の不安に付け込んでホメオパシーを利用する連中です。
しかし、たとえ善意であっても、ホメオパシーの広がりに手を貸してしまったら、貴方もそういう連中と大同小異になってしまうのです。その事だけは、決して忘れないでください。


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2 件のコメント:

  1. 生活習慣病の診療に携わる医師です。

    現在、生活習慣病の注意には、
    実行が難しいだけでなく、効果も少ない方法が推奨されているので、
    患者さんの数は減る気配がありません。

    この原因は、既存の
    「糖質や蛋白質の摂取を減らしてはならない」
    といった禁止事項が誤りだからと考えています。

    この禁止事項を犯しても、
    脳のエネルギーが不足して失神したり、筋肉量が減ったりすることは「ない」はずなのですが、
    (http://wp.w8eq.com/?p=1278#dst00)

    既存科学側をそうだと説得するのは、
    「~でない」(悪魔の)証明なので困難だと思われます。
    (彼らも証明なしに禁止事項が正しいとしていますが、「既存」は強いです)

    私の考えは、先生がおっしゃる未科学の分野かと思います。
    ただ、生活習慣病は、医療や健康にとってかなり重要な問題であることをご理解いただき、
    ふだんニセ科学を論破するために使っておられるお知恵を使って、
    既存医学を説得する方法を教えていただけませんでしょうか?

    上記の URL をご覧いただき、こちらまたは私のコメント欄にメッセージを頂ければ幸いです。
    よろしくお願いいたします。

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  2. >taijuuhさん
    ようこそいらっしゃいました。
    さて、御意見には頷ける部分も同意できない部分もございます。ホームページも拝見しましたが、御自分で「未科学」であるとお考えなのであれば、既存医学に対抗する為には、客観的事実を積み上げていく事が、何よりも重要です。
    私は、それ以外に既存医学を「説得」する方法は無いものと考えております。

    返信削除

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